JOURNAL | 第6号 · Vol.6

第2回 鎌倉オフ会──光を紡ぐ響き

執筆:養生庭師 三原崇司(み〜ちゃん)

言葉が薬になる。声が心を揺らす。香りが記憶を連れてくる。カノンハウス鎌倉で、違う道を歩んできた人たちの思いが、ひとつの場に重なった。

当日の流れ

13:00
開会(東郷俊宏先生のごあいさつ)
第一部
中嶋晃子さん 弾き語り(〜13:50)
第二部
大坂巌先生 講演「言葉が薬になる」(13:57〜15:25)
休憩
お食事(鎌倉の老舗料亭「舵屋」の仕出し弁当)・香りの展示
第三部
座談会「魂に響く“言葉”と“音(声)”をはぐくむ」(16:25〜16:40頃・ファシリテーター 東郷俊宏先生)

予定より30分ほど押したが、最後まで同じ空気のなかで進んだ。

浄明寺の庭から門と山を望む風景
朝の浄明寺。門の向こうまで緑が重なり、この日の始まりを静かに迎えてくれた。

朝の浄明寺

あの日の本当の始まりは、朝十時の鎌倉駅だった。
晃子さんをお迎えして、向かったのが浄明寺。
観光客の少ない、静かな庭だった。

曇り空の下、苔の緑が美しい。
現代的なコンクリートの建物は視界に入らず、お寺の建物も庭も、周囲の自然とひとつに溶け合っているように感じられた。
お茶室でいただいた柿の模様の和菓子は、意匠も味も見事だった。

浄明寺で並ぶみ〜ちゃん、中嶋晃子さん、大坂巌先生、東郷俊宏先生
浄明寺にて。左から、み〜ちゃん、中嶋晃子さん、大坂巌先生、東郷俊宏先生。

そして会場入りし、音響のチェック。
声はよく通った。
そのリハーサルの傍らで、大坂先生は静かに座り、目を閉じて晃子さんの声と会場の空気を身体に入れていらした。
あの時間が、午後の講演の温度を決めたのだと思う。

開演前、客席の椅子に座り、目を閉じて歌を聴く大坂巌先生
開演前のリハーサル。中嶋晃子さんの歌声と会場の空気を、目を閉じて身体に入れる大坂巌先生。

第一部 弾き語り ── 中嶋晃子さん

カノンハウス鎌倉で歌う中嶋晃子さんと客席
三角屋根の音楽堂に響く歌。客席との近さも、この日の温度をつくっていた。

伊勢神宮で奉納演奏をされる方の歌だ。
一曲ごとに、歌う前の思いを語ってくださった。
白血病でコンサートに来られなかった方のこと。
「あなたと未来の星のお話」に込めた、インドネシアへの植林の話。
このCDが一枚売れると三本の木が育つ。
命が巡っていくことを、あの声に乗せて何曲も聴いた。
後ろから見ていて、会場の心がじんときているのが分かった。

正直に言えば、この直後に西洋医学の先生が終末期ケアを語る、その落差を少し心配していた。
けれど杞憂だった。
大坂先生もまた、同じ命の話をされたからだ。

白い衣装で歌う中嶋晃子さん
中嶋晃子さん。一曲ごとに、その歌を届けたい相手と思いを語ってくださった。

第二部 講演 ── 大坂巌先生「言薬(ことぐすり)」

中嶋晃子さんと東郷俊宏先生が並ぶ転換の場面
第一部から第二部へ。中嶋さんと東郷俊宏先生が、声から言葉へ橋を渡す。

言葉が薬になる。
望ましい最期とは何か。
そのひとつは、伝えたいことを伝えられることだ、と先生は言う。
本人が伝えたいことを伝え、周りの人の伝えたいことも届く。
最後の晩餐に何を食べたいか、という問いから入って、先生ご自身は桃のゼリーだと話された。

そして、先生が紹介された東日本大震災の話。
中学二年生の男の子が、学校から帰る山道で、津波に流されていく家々を見ていた。
その中に、お母さんがいた。
流されていく人たちが口々に「助けて」と言うなかで、お母さんだけは、そう言わなかった。

息子の名前を呼んで、お母さんが残したのは、この二つの言葉だった。

頑張りなさいよ。そして、いい人になりなさいよ。

もし「助けて」と叫んでいたら、あの子は自分が助けられなかったことを一生悔やんだかもしれない。
けれどお母さんは、とっさに、子どもに未来を残す言葉を選んだ。

これはバトンタッチの言葉だと思う。
私の分まで頑張って生きなさい、私の思いを受け取ってね、と。
バトンを渡された人は、やるぞと立ち上がれる。
後悔ではなく、生きる力が残る。

自分に置き換えてみる。
果たして自分に、あの言葉が言えるだろうか。

大坂巌先生の講演中の会場
大坂巌先生の講演。言葉の奥にあるものを、会場のみんなで受け取った。

ろうそくの炎と、最後の言葉

大坂先生は、ろうそくの炎のことも話された。
消える直前に、炎がふっと明るくなる。
夕日も、水平線に沈む瞬間に緑に光ることがある。
グリーンフラッシュと呼ばれる現象だ。
人の人生にも、そういう瞬間がある。
亡くなる前に、一瞬元気を取り戻す時間が訪れることがあるという。
僕もその話は聞いたことがあった。

親しければ親しいほど、最後の言葉はかけられない。
とりわけ長く連れ添った夫婦ほど、そうだと思う。
ありがとう、さよなら。
身近な人に言葉を添えることは一番大切なのに、言わなくても分かるだろう、と日本人はつい思ってしまう。
でも、みんなそこを求めているのだ。
あの日、それを感じた。

大坂先生は、自己治癒薬という言葉も使われた。
誰かに言われるのではなく、自分の中から出てくる言葉。
それが、その人自身の生きる力を内側から支える。
薬は外から与えるものだけではない。
僕も、伝える力でその人の生きる力になれるような、そういう応援をしていきたいと思った。

香りで届ける ── 佐佐木景子先生

この日には、もう一人、大切な人が関わってくださった。
アロマセラピストの佐佐木景子先生だ。
株式会社フォアナイン代表取締役。
西九州大学客員教授、人間総合科学大学非常勤講師を務め、日本ハンドケア協会副理事長、日本フィトセラピー協会理事として、香りと手のケアの世界を長く牽引してこられた。
医療機関での長い経験をもとに、ホリスティックなケアの提案やスパ・サロンのプロデュースを手がけ、介護施設でのボランティアにも力を注いでこられた。
まさに香りの、匂いのスペシャリストである。

佐佐木先生が会場に来られることを事前に知っていたので、僕は先生にお願いをしていた。
言薬(ことぐすり)と一緒に、この日の思いを、香りとしてもみんなに持ち帰ってもらいたい。
東郷先生が作ってくださった場には、これまでの講義の積み重ねの中で、先生の香りとしか言いようのないものがあるはずだ。
それをどうしても形にしたかった。

佐佐木先生は、本番のわずか一週間前の、しかもお忙しい中でそれを引き受けてくださり、素晴らしい香りを作って、当日みんなに届けてくださった。
本当にありがとうございました。

メッセージカード「Le parfum de Toshi」

メッセージカード Le parfum de Toshi(トシの香り)。深い森を思わせる香りの中に清涼感と透明感を感じる 檜。荘厳なウッディ調の香りに凛とした清々しさを感じる 高野槇。やさしい甘さと柔らかい香りで、不安や緊張を和らげる 土佐小夏。甘くスパイシーな香りで心身を深いリラックスへと導く 沖縄月桃。荘厳な森のような深い知識を持ちながら、私たちを包み込む愛に満ちた優しさと、全ての人を受け入れるおおらかな透明感を持つ東郷先生。ブレンド精油で東郷先生のイメージフレグランスを作りました。自然と呼吸が深くなるのを感じていただけたら幸いです。Produced by KEIKO SASAKI
佐佐木景子先生が東郷俊宏先生のために調香した香りに添えられたメッセージカード(当日のカードの文面をもとに作り直したもの)。

檜、高野槇、土佐小夏、沖縄月桃。
四つとも、日本の土地から生まれた国産精油である。
佐佐木先生は、日本の土地の香りを重ねながら、東郷先生の人柄と佇まいを一つの香りとして描いてくださった。

この香りを受け取って

今回、佐佐木先生が選び、組み合わせてくださった国産精油は、どれも簡単に手に入るものではない。
その貴重な香りを四つ重ねて、これほど奥深い一つの香りに仕上げてくださった。
景子先生、さすがだなと、本当に感動した。

長い年月をかけて香りと向き合ってきたプロの仕事は、やはり違うのだとつくづく感じた。
西洋の精油を中心にした香りとはまったく趣が異なり、日本の土地と文化が息づいているような、心に深く染み込んでくる香りだった。

大坂先生の言薬(ことぐすり)、晃子さんの声の響き、そしてこの香り。
頭で考えるのではなく、身体に染み渡る、染み込ませる。
そういう一日になった。

香りと心のつながりについて、次回ぜひ佐佐木先生に改めてお話を伺いたいと思っている。

匂いを感じる力の衰えは、認知機能の変化と関わりがあるとも言われている。
匂いは、健康を考えるうえで見過ごせない入口のひとつなのだと思う。
言葉と、声と、香り。
どれも身体に直接届く。
そのすべてが揃った一日だった。

香りの参考:日本各地の和精油(日本アロマ環境協会) / 高野槇の香り(素材紹介)

場を作ってくださる人へ

中嶋晃子さん、大坂巌先生、東郷俊宏先生の座談会
第三部の座談会。左から中嶋晃子さん、大坂巌先生、東郷俊宏先生。

忘れてはならないのは、こうした場そのものを作ってくださっているのが東郷俊宏先生だということだ。
前回のパシフィック・マザー、今回の言薬(ことぐすり)、そして10月25日の第3回、佐治順子先生の音楽療法講座へと、人と人が出会う場を絶やさずに用意してくださっている。
東洋医学の伝統がどう伝わってきたのか、言葉で伝わり、紙に書かれ、印刷となって広がっていった、その根っこから教えてくださったのも先生だ。
言葉を磨くということを教えてくださったのも先生だった。
心から感謝しています。

言葉を処方できるのは誰か。
医者ではない。
処方という言葉のせいで医者だと思ってしまうけれど、みんななのだ。
人が伝えることの九割以上は言葉以外で伝わっていると言われる。
それでも残りのわずかな部分を磨くこと、そこに宿る言葉を、人は求めている。

自分の心を、未来の人へ。
ここまでやってきたことをバトンとして渡したい。
そういう人たちに囲まれていることを、この一日でつくづく感じた。
その思いをどう届けるか。
このジャーナルで、これからも伝えていきたい。

座談会終盤の中嶋晃子さん、大坂巌先生、東郷俊宏先生
座談会の終盤。中嶋晃子さん、大坂巌先生、東郷俊宏先生。最後まで、同じ空気の中で言葉が交わされた。
カノンハウス鎌倉の音楽堂で、参加者のみなさんと撮った集合写真
終演後、会場のみなさんと。前列左から、大坂巌先生、中嶋晃子さん、東郷俊宏先生。

関わってくださった方々

この日の場を、舞台の外から支えてくださった仲間がいる。

東 豪(あずま つよし)先生

鍼灸専門 一齊堂(東中野)代表。
伊藤瑞凰先生の一門として古典鍼灸の術式を受け継ぎ、私塾「東塾」でその実技を伝えている。
「気血のめぐり」を調えるという東洋医学本来の治療を、日々の臨床で実践している鍼灸師だ。

菅原千明先生

鍼灸師。
群馬県邑楽郡大泉町で、古典中医学をもとにした丁寧な治療を続けておられる。
「メノポーズ鍼灸®︎」を商標登録し、シニアメノポーズ(更年期)カウンセラー、医薬品登録販売者の資格も持つ、女性の更年期の専門家だ。
この日は運営のお手伝いに来てくださった。

蓑内あかねさん

いまは僕たちのイベントづくりに力を貸してくれている大切な仲間のひとりだ。
人と人の間にあるつながりを大切にしながら場を支え、必要なところに自然と手を差し伸べてくれる。
今回もあかねさんと一緒に場をつくれたことが嬉しい。

それぞれ専門の分野は違う。
けれど、みんな心を持って、世に伝えていきたい。
そのために集まったのが、ここのメンバーなのだと思う。

主催・座談会ファシリテーター 東郷俊宏先生 / 講演 大坂巌先生 / 弾き語り 中嶋晃子さん / 香り 佐佐木景子先生 / 仕出し 舵屋 / 企画プロデュース み〜ちゃん

登場された方々のページ

からだ・こころ・暮らしを、ひとつの庭のように受け取り、その人らしい巡りと育ちを整える人。治療、対話、手当て、養生の工夫を通して、無理なく生きる力が育つ環境をともにつくります。

養生庭師 三原崇司(み〜ちゃん)

この記事の根拠

出典当日の写真、動画記録、講演の文字起こし(速報版)とその読み解きメモ、三原崇司の現地記録
発表日2026年9月27日(開催日)
研究タイプ該当しない(イベント記録)
対象人数該当しない
主な結果該当しない
限界講演の文字起こしは速報版で、言葉の細部は動画での再確認が必要です。ご本人の了承を確認中の話題と写真は、この版には載せていません。
実務への意味事実と執筆者の感想を分け、当日の場と受け取った思いを記録すること。
注意健康・医療に関する記述は一般的な情報であり、個別の診断や治療の指示ではありません。
  • 第2回 鎌倉オフ会「魂に響く“言葉”と“音(声)”をはぐくむ」2026年9月27日、カノンハウス鎌倉(当日の案内ページ)
  • 大坂巌『納得する生き方』(講演のもとになった著書)

この記事は一般的な情報をお伝えするものです。個別の診断や、治療の指示ではありません。 お身体のことは、かかりつけの医療機関にご相談ください。

JOURNAL の一覧へ → | ゆらぎの手に参加する