JOURNAL | 第7号 · Vol.7

九十一歳の物理学者を支える音楽療法

執筆:養生庭師 三原崇司(み〜ちゃん)

佐治順子先生 鎌倉講演によせて。
もうひとつの特集は、八重山から未来へ──やいまの歌を100年先へ。

夜空から降りてきた一本の旋律が脈になり、掌へ届く
宇宙へ送られた一本の旋律が、人の脈になって掌へ戻ってくる。

卒寿のパイプオルガン

2025年1月13日、所沢市民文化センターミューズのアークホール。
「佐治晴夫先生 卒寿記念レクチュア&コンサート ― 人新世を生きて90年」。
僕はその客席にいた。

壇上のパイプオルガンの前に座ったのは、理論物理学者だった。
パイプオルガンを始めたのは八十歳。
十年かけて、ご自身の卒寿記念コンサートにその音を人の前で鳴らすところまで来た。

あの音を聴いたとき、僕の中で一つの問いが立った。
この人は、なぜこういられるのか。

大きなコンサートホールの舞台にそびえるパイプオルガンと手前の客席
卒寿のパイプオルガンによせたイメージ挿絵。実際の会場・楽器の再現ではありません。

九十一歳で、なぜそれができるのか

佐治晴夫先生は1935年生まれ。
理学博士、理論物理学。
宇宙と音楽をめぐる話を、講演や著作で伝えてきた人である。
ボイジャー探査機に載せられたゴールデンレコードには、バッハの曲も収録されている。
地球から宇宙へ送られた「人類のメッセージ」の中に、いまもバッハが飛んでいる。

宇宙へ届けた地球の音を聴く — ゴールデンレコード(NASA公式・英語) ↗
NASAのページで「Sounds of Earth」の音声を聴けます。収録された音楽の一覧も紹介されています。

その先生が、今年九十一歳。
いまも年に何本もの講演に立ち、オルガンを弾き、本を書いている。

それを「元気なお年寄り」で片付けるのは簡単だ。
でも僕は、介護と在宅医療の現場を長く見てきた。
九十を過ぎて、記憶と言葉と指先がそろって残っていることが、どれだけ珍しいかを知っている。
そこには、必ず「支えている人」がいる。

その裏方にいたのは、妻である佐治順子先生だった。

音楽療法を「測った」研究者

佐治順子先生は、音楽療法を情緒で語らない人である。
東京藝術大学大学院で音楽学を修め、バロックの教会音楽と手稿楽譜の研究から出発した。
そこから音楽療法に向かい、東北大学大学院で「痴呆性高齢者の音楽療法に関する基礎的研究」を博士論文としてまとめ、宮城大学看護学部の教授を務めた。
日本音楽療法学会東北支部の事務局長も担っている。

研究の芯は「固有テンポ」だ。
人にはそれぞれ、身体が最も楽に動けるテンポがある。
認知症の高齢者に対して、そのテンポが音楽療法を続ける中でどう変化するかを、何年もかけて追った。
脳波、呼吸数、パーキンソン病患者の発話の音声分析。
オックスフォードの世界音楽療法大会でも、ヨーロッパの学会でも、そのデータを発表してきた。
アルツハイマー型認知症の終末期における音楽療法についても論文がある。

「音楽は心にいい」という話ではない。
身体のどこが、どう動くか。
それを測ってきた人である。
物理学者の夫と、そこで地続きだ。
固有テンポ。身体が最も楽に動けるテンポは、一人ひとり違う。

論文と生活が、一本につながっている

データで検証してきたその方法を、順子先生は自分の夫に、日々注ぎ続けている。
音楽だけではない。
食べること、動くこと、人と会うこと、講演のために旅に出ること。
その全部を整えて、八十歳からパイプオルガンを始める夫を、止めずに支えた。

僕はそれを現場で見てきた。
表には出ない。
裏方である。
でも、九十一歳の物理学者が今も壇上に立ち続けている姿に、僕は日々の支えの大きさを感じる。

このご夫婦は、音楽療法の話にとどまらない。
老いをどう生きるか、人が人をどう支えるか、その寺子屋だと思っている。

名前は忘れても、あの歌は覚えている

在宅の現場で、何度も見た光景がある。
家族の名前が出てこない人が、若い頃の歌なら二番まで歌える。
言葉を思い出しにくくなっても、なじみの歌が口をついて出ることがある。
もちろん、その現れ方は一人ひとり違う。
順子先生の研究は、その構造に手をかける方法である。

僕は音楽を、病気を治すことだけで測りたくない。
その人らしい時間や、人とのつながりを支える手だてとして考えたい。
親の物忘れが気になり始めた人、自分の物忘れが怖くなってきた人、介護や医療の現場で音楽を使ってみたい人。
そういう人にこそ、聴いてほしい話である。

並んで座る二人の後ろ姿。ひとりの手が、もうひとりの肩に
音楽がある。隣にいる。

会場は、カノンハウス鎌倉

会場のカノンハウス鎌倉は、音楽家の間で響きの評判が高い。
木の梁が山形に組まれた天井、無垢の床、そして床に置かれたグランドピアノ。
音楽療法の話を、その音が実際に鳴る場所で聴く。
それ自体が、この会の一部である。

鎌倉という土地もいい。
講演の前後に、海と寺を歩ける。
音楽好きには、たまらない一日になるはずだ。

山形に組まれた木の梁の天井の下に、グランドピアノと一脚の椅子
鎌倉のピアノのある空間をイメージした挿絵。実際の会場・楽器を正確に再現したものではありません。

開催概要

講演
佐治順子先生 特別講演会
日時
2026年10月25日(日)14:00開演(13:30開場・16:30終演予定)
会場
カノンハウス鎌倉(神奈川県鎌倉市浄明寺3-10-37)
参加費
5,000円
主催
としちゃん企画

講演会のイベント案内を見る

開催時間・アクセス・お申し込みの詳細は、イベント案内をご確認ください。

やいまの歌を、
100年先へ。

BIG NEWS · YAIMA / 2026 / 言葉の募集は 10月15日(木)まで

八重山に暮らす人も、島を離れた人も。
旅で出会った人も、遠くから想う人も。
あなたの中にある「やいま」を、一つの歌へ。

言葉を寄せる・応募案内へ ↓

金城弘美さんと中嶋晃子さんを、八重山の海と草花とともに描いたイラスト
島に根づく唄と、これから生まれる歌。
金城弘美さん(左)と中嶋晃子さん(右)。ご提供写真をもとに描いたイメージイラスト。
  • ことばを集める10月15日まで
  • 歌へと紡ぐみんなの記憶
  • 未来へ渡す100年先へ

新聞に載った、小さな言葉から始まる大きな企画

「やいまの歌を100年先へ」。
中嶋晃子さんが共有してくださった八重山毎日新聞の掲載記事には、そんな見出しがあった。
記事は、石垣島に暮らすシンガーソングライターの中嶋さんが、八重山にまつわる言葉を集めて歌をつくる取り組みと、八重山民謡の唄者・金城弘美さんの協力を紹介している。

正式な企画名は「みんなでつくろう! やいまの歌」。
完成した歌詞を募るコンテストではない。
暮らしのなかの言葉、旅の記憶、忘れられない景色、島くとぅば、未来への願い。
歌になる前の、小さなかけらを持ち寄る企画である。

僕がこの取り組みに惹かれるのは、誰かが一方的に「島の歌」を決めるのではなく、まずそこに生きる人や、島に心を寄せる人の声を受け取ろうとしているところだ。
受け取って、渡す。
ゆらぎの手が大切にしていることと、ここでつながる。

新聞紹介は、ご提供の八重山毎日新聞掲載画像をもとに編集部が要約しました。募集・日程は公式案内で確認しています。

中嶋晃子さん──自分の声だけで、島を語らない

企画・作詞・作曲を担う中嶋晃子さんは、石垣島在住のシンガーソングライター。
高校卒業後に英国へ渡り、LIPAでポピュラー音楽と音響を学んだ。
帰国後はレイラーニ名義でメジャーデビューし、現在は中嶋晃子名義での音楽活動や、声に向き合う教室にも取り組んでいる。

今回の募集案内で伝えられているのは、八重山で生まれ育った人ではないからこそ、自分だけの感覚で仕上げないという姿勢だ。
地域の声を聞き、金城弘美さんから文化と音楽を学び、寄せられた言葉を歌へと編んでいく。

その声を知ることは、企画を知るもう一つの入口になる。
まずはご本人の公式サイトで、歌や活動に触れてみてほしい。

Instagramはご本人のnoteで紹介されているアカウントです。最新の投稿内容はInstagramでご確認ください。

金城弘美さん──島に根づいた唄の、道案内

八重山音楽・文化アドバイザーを務める金城弘美さんは、石垣市登野城出身の唄・三線のアーティスト。
安室流協和会師範で、とぅばらーま大会での最優秀賞受賞歴を持ち、アルバムの発表や多くの音楽家との共演を重ねてきた。

新聞記事では、文化的な視点から曲づくりに協力する役割が紹介されている。
島の言葉や音楽を、単なる「南の島らしい雰囲気」に置き換えない。
土地に根づく唄の文化に教わりながら、新しい歌を育てようとしていることが、この企画の大切な土台だと僕は感じる。

八重山の青い海、珊瑚、島影とハイビスカスを描いた挿絵
ひと言から、島の未来につながる。

八重山を「感じた人」も、参加できる

募集は島民だけに限られていない。
八重山に住む人、出身者、かつて暮らした人、旅行で訪れた人、八重山が好きで応援している人。
年齢や現在の居住地を問わず、無料で参加できると案内されている。

書くのは、立派な文章でなくていい。
心に残った音。
誰かの声。
もう一度見たい景色。
ひと言からでも、あなたが受け取った八重山を伝えられる。

上の問いは編集部からのヒントです。実際の応募項目・条件は公式フォームをご確認ください。島くとぅばを寄せる場合は、分かる範囲で島・地域も添えると、その言葉の背景を伝えられます。

YOUR WORDS, OUR SONG

あなたの言葉を、歌の種に。

募集締切
2026年10月15日(木)
募集期間:9月1日〜10月15日
寄せるもの
八重山の言葉・思い出・風景・島くとぅば・未来への願い
対象・費用
八重山にご縁や想いのある方。年齢・居住地を問わず、応募無料。
制作
企画・作詞・作曲:中嶋晃子
八重山音楽・文化アドバイザー:金城弘美
主催・協力
主催:水鏡実行委員会
協力:あいのうた合同会社

公式応募フォームへ · 言葉を寄せる

応募は主催者のGoogleフォームで行います。このジャーナルでは個人情報を収集しません。

応募内容は楽曲制作に使用され、すべてが歌詞に採用されるとは限りません。楽曲の演奏・録音・映像・SNS・音楽配信等での公開や販売に関する同意事項があるため、送信前にフォームの説明をご確認ください。第三者の歌詞や、許可のない個人情報は書かないようにしましょう。

11月28日は、完成の日ではなく、誕生の日

最初のお披露目は、2026年11月28日(土)17時から、ANAインターコンチネンタル石垣リゾートで開催される「カープレミア やいまくにづくりフェス」で予定されている。
前夜祭は前日の11月27日(金)、チャレンジ石垣島で開かれる。

公式案内では、お披露目を終点にしないことも伝えられている。
その後、地域の人や音楽家とともに歌を育て、録音や映像制作へ進んでいく構想だ。

遠い宇宙へ音を届けたゴールデンレコードと、100年先へ島の歌を手渡そうとする取り組み。
二つは違う企画だけれど、今ここにある音を、まだ出会っていない誰かに届けたいという願いが、今号を通して響いている。

歌になる前の、あなたのひと言。
その小さな声から、未来への歌が育っていく。

開催内容は変更になる場合があります。来場・旅行の前に、主催者と各交通機関の最新案内をご確認ください。

からだ・こころ・暮らしを、ひとつの庭のように受け取り、その人らしい巡りと育ちを整える人。治療、対話、手当て、養生の工夫を通して、無理なく生きる力が育つ環境をともにつくります。

養生庭師 三原崇司(み〜ちゃん)

この記事の根拠

出典佐治順子先生の研究業績(researchmap)、卒寿記念レクチュア&コンサートの客席での三原崇司の記録、「やいまの歌」の公式案内・公式応募フォーム、八重山毎日新聞の掲載記事(ご提供の紙面画像)
発表日2026年10月2日(八重山企画の案内は2026年10月3日確認)
研究タイプ該当しない(講演案内・企画紹介)
対象人数該当しない
主な結果該当しない(佐治順子先生の個々の論文の結果は、本文では扱っていません)
限界新聞記事は紙面画像をもとにした要約で、掲載日は画像内では確認できていません。挿絵はイメージで、実際の会場・楽器・人物の再現ではありません。
実務への意味なじみの音楽を、治療の効果ではなく、その人らしい時間と人とのつながりを支える手だてとして考えること。
注意本誌は一般的な情報と筆者の体験・所感をお届けするものです。音楽による特定の治療効果や、健康状態の改善を保証するものではありません。

この記事は一般的な情報をお伝えするものです。個別の診断や、治療の指示ではありません。 お身体のことは、かかりつけの医療機関にご相談ください。

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